軍平記〜その男、村政〜
両手に槍を持ち、突き刺しては抜き、折れれば取り替え、刀を奪い、又折れれば替え、得物がなければ拳を突き立て、蹴りを食らわせ、又武器を奪い戦う。
獅子奮迅の戦いぶりであった。
息すら切らさない脅威の体力で跳躍する。
たちまち千人を抹殺する。
槍を投げ、貫通させ、又突っ込む。
武器を奪い、槍を投げ、兵士を持ち上げ投げ付ける。全てを武器とする。
その無駄の無い連続攻撃に、青葉軍は徐々に疲弊していく。
前からは松代軍、側面は赤城軍。大将も倒され、たった一人の村政に翻弄され、士気は著しく低下している。
尚も村政の攻撃は止まない。
踊るように、はしゃぐように村政は戦う。
返り血を身に浴び、兵の頭上から浴びせる攻撃に、なす統べなく崩れ落ちる兵士。
かと思うと、下から突き上げるように一閃を貫く一撃を繰り出す。
馬が一頭倒れれば、後続も巻き込まれて倒れる。
軍が崩壊していくのが手に取るように解る。
赤城軍にも村政の触手は伸びる。
やがて松代軍にも攻撃は及ぶであろう。
青葉軍と同じように、敵国と戦いながら、村政の脅威に曝されるのである。
戦いの前線には村政の脅威は伝わっていない。
ただ、目の前の敵を打ち倒す事に終始している。
青葉軍の勢いが衰えてきた。
「さあ、あと一押だ!」
松代軍の指揮官が言う。
赤城軍も青葉軍の攻撃の衰えに気が付いた。
松代、赤城両国は合わせて六千足らずに激減していた。
青葉軍に至っては、五百まで減った。
戦場に風が舞う。
青葉軍の兵士の体が飛び散る。
「な、なんだあれは!」
青葉軍を見る。
両軍の動きが止まる。
砂塵舞う中、一匹の獣が立っている。
「人か!鬼か!何だあれは!」
全員が目を見張る。
瞬間、赤城軍に何かが投下された。
砲弾だった。
続け様に、松代軍にも砲弾が投下された。
兵士たちが吹き飛ぶ。
一体そこで何が起きたのか。
誰も解らない。
獣が二国の前に歩いてくる。
ドゴーン!!
またしても砲弾が撃ち込まれる。
獣が両手に持った刀を回転させ、赤城軍の兵士の首を飛ばす。
瞬間に何人もの兵士が倒れた。
尚も止まない斬撃。
ギラギラした目を見開き、うっすらと笑う口元。
「俺の前に敵はない。あるのは、ただ道を塞ぐ石のようなものだ。」
村政は宣う。
「さあ、掛かって来い。俺は未だ血に飢えているぞ!!」
村政は二国に突っ込んでいく。
そして、更に砲弾が撃ち込まれていく。
「待たせたな、村政よ。」
総司は肩にかけた最新式の連発式大砲を持ち、更に松代、赤城に撃ち込む。