軍平記〜その男、村政〜
禁忌。
無数の屍が野を埋める。
カラスが遺体をついばむ。
火薬の匂いと、血の匂い。鉄臭く生臭い香りが漂っている。
馬たちも倒れ、鎧や刀、槍が突き刺さった地面。
丸一日で四万近くの兵士が地に伏した。
赤城、青葉、松代の軍は、死力を尽くし壊滅。
村政は実質一人で一万の兵を葬った。
網から漏れた魚のように何人かが自国へ敗走した。
何人かがである。
敗走したのは、むしろ魂が抜けた人の脱け殻だった。
恐怖は拭いきれない。
心に刻まれた傷は治る事は無い。
それ程の衝撃が、敗走兵に刻まれていた。
三国共、被害は甚大だ。
青葉国は僅か一週間足らずで三万を失った。
赤城国は国境警備の三千のみが帰国。
松代国も全滅。
本国にその事実が知らされたのは、3日後の事だった。
青葉国は松代国に対し激昂。
だが、戦争に臨む準備は整っていない。
苦虫を噛み潰す思いだった。
松代国も同様に青葉国に対し、激昂していた。
もはや、赤城との同盟も叶わない。
青葉国と雌雄を決する他は松代国に生き残る道はない。
だが準備が整わない。
まして、他国の侵略に対しても兵を割かなければならない状況である。
強国、青葉に対して戦闘は実質不可能なのだ。
僅か10日程度で、勢力構図は変わった。
「ひとまず、初戦はこんなものか。」
伊達総司は、連発式大砲を投げ捨て言った。
「そうですな、若。少しはしゃぎ過ぎました。」
村政が言う。
「しかし、村政。そちは本当に強いな。」
満足そうに総司は言う。
「いえ。まだまだ暴れ足りませぬな。」
村政は不満そうに言う。
「さて、これから我が故郷の青葉へ向かう。貴場にいよいよ鉄槌を下しに行く。」
「ははっ。いよいよですな。」
「秘密裏に青葉国へ向かう。極衆に気付かれないように行くぞ。」
「ははっ。」
二人は、三国激突を目論んだ。
松代軍に潜り込み、青葉国の刺客から身を隠し、秘密裏に大蝦夷国を経由し連発式大砲を総司は入手。
松代の主要な指揮官を、村政が暗殺し、青葉国との同盟に亀裂を加え、赤城国を有利に誘導し、仲違いに陥った松代と青葉にぶつける。
間者として青葉に潜り込んだ村政が、混戦に陥って、疲弊した戦場で青葉を攻撃。
混乱の中で三国の兵が消耗するなかで総司が無差別に砲撃。
更に混乱に乗じて、殲滅させていく村政。
これが二人が描いた今回の戦いの作戦だった。
作戦は成功した。
次の作戦は軍が手薄になった青葉国に入国し、貴場藤十郎に接近する。
本懐を遂げるのだ。
二人は青葉国、故郷へ向かう。
目指すは仙台城へ。