軍平記〜その男、村政〜
総司と村政は、羽黒の手前最上へ辿り着いた。
最上の船着き場で川を昇り、羽黒へ向かう。
深山幽谷の谷間を滑るように進む船。
村政が総司に訪ねる。
「若、マサムネとは一体何なんですか?」
総司は答える。
「うむ。かつて北の宮朝廷のわしの先祖と激しい戦いを繰り広げた武将だ。」
「余りにも強い怨念の為、首は滅びず、魔道信仰の神体になった邪神でもある。」
「今まで羽黒は特別禁忌区域として厳重に監視され、誰も立ち入る事は出来なかった筈だが。」
総司は訝しげに答える。
「仮に羽黒陰陽衆の霊力を帯びて復活する様な事が起きたら、七本国が滅びる程の脅威にさらされるだろう。」
「それ程の脅威なのですか。」
村政が聞く。
「ああ、今度ばかりは悪いが村政、我等二人で互角かそれ以下か。」
「そなたに本気で戦って貰うことになる。」
「それは構いませぬ。むしろ本望です。」
村政は微笑む。
「それ程の武将と戦える事はそうは無いですから。」
「ああ、それは心強い。だが決して油断してはならぬ。文字通り命懸けの戦いになるだろう。」
「御意。」
二人を乗せた船は羽黒一ノ門鳥居に到着した。
ごぁあぁぉぉ・・・。
雷鳴の如き雄叫びが、響いてくる。
「ま、まさか!マサムネが復活したのか!?」
総司は驚く。
「あの雄叫びか。」
村政の顔付きが変わった。
一切の笑みが消え、眼光が鋭く光出す。
「うごぉぉぉぉぉっ!!」
村政も雄叫びを上げる。
それは強烈な地響きの如き雄叫びだった。
二つの雄叫びが、最後の戦いの号砲となった。
羽黒のカラス達は一気に飛び立った。