軍平記〜その男、村政〜
軍平対軍平(前編)
羽黒参道は昔修験の山だった為、酷く険しい。
天然の要塞として将門マサムネは本拠を置いた。
羽黒陰陽衆の力を借り、羽黒門徒を従え最強の兵団を作り、朝廷に取って代わろと画策したのである。
その純粋な野望に人々は惹かれていた。
カリスマ性と言うのか、とにかく支持する人間は沢山居た。
又、朝廷には同じカリスマ性を持つ伊達家の存在も強かった。
一度、伊達夏円と将門マサムネは戦う前に会談していた。
意気投合し、酒を飲み、朝まで語り明かすほど気が合った。
お互いがお互いの立場を理解し、あくまでも戦うと決断した時、二人は正々堂々、戦場で戦うと誓った。
熾烈な戦いの後、マサムネは捕らえられ、斬首となるのだが、酷く憔悴しきっていた。
その姿は、戦に於いてではなく、明らかに陰謀により陥れられた姿だった。
余りの無念さにマサムネは自らに与えられた呪われた血を生かし、首だけの姿のまま羽黒へ飛んだ。
朝廷に対してではなく、羽黒陰陽衆に対し、復讐するべく。
だが、その首は強烈な呪術により封印され、呪いを与える事によって今までのマサムネの人格を破壊し、憎悪を生み出す悪鬼へと変貌させていった。
今、羽黒で蘇った悪鬼マサムネはただ人間に対して憎悪しか持たない、殺戮を楽しむだけの悪鬼として蘇ったのだった。
五重塔の天辺に月明かりを浴びた鬼が立っている。
不気味な笑みをたたえ、村政達に対して襲い掛かる瞬間を待つようだった。
気付いた村政は塔を昇り、マサムネと対峙する。
「貴様がマサムネか!」
村政が言う。
マサムネは笑ったまま村政を見る。
次の瞬間村政の片腕に激痛が走る。
「くっ!!」
慌てて飛び退く村政。
左腕に強烈な一撃を受け、感覚を失った。
「な、なんて速さだ。」
村政は驚愕した。
今まで戦った事の無い強烈な敵だった。
尚もマサムネは村政に向けて攻撃を開始する。
電光石火の拳と足蹴りの連続攻撃。
村政はかわす事に精一杯だった。
全力で攻撃をかわし、体への直接攻撃を防ぐ事に神経を注ぐ。
「このままでは反撃も出来ない。策すら考える時間も無い。」
激痛が左腕を襲う中、必死でかわす。
村政の脇腹に又しても痛みが走る。
「うっうぐっ!」
顔を歪める。
猛烈な蹴りをまともに喰らう。
そして塔から下へ吹き飛び落下する。
更に強烈な蹴りが腹部に激突する。
「うぐっ!」
血を吐き出す村政。
−これで終わりか・・・。−
マサムネが口を開く。
−ならば、死ね。−
気を発したマサムネの右拳が村政の心臓目掛けて突き貫く。
ウグァァッ!!
村政絶体絶命の危機。