軍平記〜その男、村政〜
村政は刀を抜く。
巫女の斬鉄。
村政の手に吸い付くように収まる。
マサムネは突然叫び出す。
うごぉぉぉぉっ!!
豪雷のごとき声で、体を萎める。
背中の骨が抜け出す。
メキメキメキメキっ!
肩の骨を一本、マサムネが引き抜き、それは刀のようになる。
―我が愛刀、骨の剣。久々に振るってやる。―
生前、胴体と首を繋ぐときに用いた刀はマサムネ本人が打った刀である。
砂鉄に倒した武将達の人骨を砕いた粉をまぶし打ち続けた。
それが愛刀「骨」である。
二人は刀を下げ向かい合う。
号砲は羽黒のカラスが飛んだ羽音だった。
うりゃああぁぁぁ!!
うごぉぉぉぉぉぉ!!
二人の刀がぶつかり合う。
衝撃で周りの木々が飛んだ。
ドゴーン!!
激しく打ち合う二人の刀。
力と力がぶつかり合う。
そして速い。
気を込めた村政の斬鉄は的確にマサムネの刀の攻撃を受け流す。
―ほほう。先日とは違うな。面白い。―
マサムネも骨の剣に気を込める。
―喰らえ!!―
斬撃に更に重さが加わる。しかも、速い。
お互いの刀がぶつかり止まる。
周りの土が吹き飛ぶ。
マサムネの刀が村政をねじ伏せる。
「くっ!」村政は堪える。電撃を受けたように痺れる。
二太刀目を繰り出すマサムネ。
突きを出す村政。
マサムネをかすめる。
一進一退の攻防が繰り返される。
飛び上がるマサムネ。
追う村政。
塔の屋根で向かい合う。
ガラガラガラ。
屋根瓦が崩れ去る。
又、組み合う二人。
壮絶な斬撃の打ち合い。刀の刃風が嵐のように吹き荒れる。
―ぐふふふ。これだ!この感覚だ!思い出すぞ、夏円との戦いを!!―
ひたすら剣を繰り出すマサムネ。
悪鬼である。
もはや人ではない。
限界も無い。
村政は全身全霊で攻撃を繰り出している。
身体中の気を発し、ジリジリと消耗していく。
村政は戦場に於いて、疲れた事は無い。
それは何も手を抜いている訳ではない。
マサムネが、段違いに強い。
そして、生気を奪い続ける魔物であると言う点が軍隊と違うのである。
「こ、これは短時間で倒さねばならない・・・。」
村政は本能的にそれを感じ取った。
―何を考えている。もうお終いか。―
村政の頭上から刀が降り下ろされた。
斬鉄で受ける。
足まで響く衝撃だ。
「くっ!なんて力だ。」
受けた刀でマサムネへ弾き返し、体をぶつける。
マサムネと村政の体がぶつかり合い、共に塔から落下する。
刀の柄でマサムネの顔面を捉える。
―ぐふっ!―
更に連打で顔面を殴る。
マサムネは村政を弾き飛ばし、体勢を立て直す。
すかさずマサムネの懐に飛び込み、袈裟斬りに下から切り上げる。
マサムネの体が切れる。
「よし!」村政はマサムネのを切った感覚を捉えた。
―くっ、抜かったわ。―
マサムネが村政を掴みに掛かる。
かわす村政。
尚も骨の剣が村政の頭上を捉える。
一閃が村政に振り落とされた。
空中を後転し、皮一枚で避ける。
体勢を整えマサムネの頭上から斬りかかる。
マサムネは骨の剣で受け流し、更に連打の斬撃を村政に浴びせる。
斬鉄が火花を散らして受け止める。
気合いと共に突きを繰り出す村政。
マサムネの体に三段突きを決めた。
斬鉄は又してもマサムネの体を捉えた。
後ろへ弾き飛ぶマサムネ。
杉の大木がメキメキ音を発てながら割れた。
息が上がっている。
肩で息をする村政。
―ぐふっ。治らぬ。わしの体の傷が。―
立ち上がったマサムネは言った。
斬鉄は唯一マサムネの体に傷を与える事が出来る刀だ。
村政の体力を奪うのも早い。
「はあ、はあ・・・。」
マサムネに傷を与えていても、致命傷には至らない。
このままでは、体力が尽きる。
マサムネは尚も攻撃を仕掛けてくる。