軍平記〜その男、村政〜
袈裟斬りから右上に切り上げ、更に正面頭上から切り落とされる。
そして連撃の突き。
気をまとい熱を帯びた骨の剣が容赦なく村政を襲う。
少しでも気を抜き、油断した時体をバラバラに引きちぎられる。
それだけではなく、足蹴りや、体をぶつける体当たりも同時に繰り出してくる。
村政は斬鉄に気合いを乗せ、防ぐ。
そこから反撃の技を繰り出しても、マサムネを倒せる程の攻撃は与えられない。
苦戦は必至だが、気力で食らいつく。
徐々に押されていく村政。
長引く戦い。
「くそっ!埒が明かない。このままでは俺の体力が尽きる。この技を試すか。」
村政は間合いを取った。
全身の気を集中させ、斬鉄に纏わせる。
斬鉄はにわかに紫の波動をまとい、村政と一つの気の塊になる。
全霊を込めた村政の降り下ろした刀は、刃風となり、カマイタチの如くマサムネに襲い掛かる。
ザグギューーン!!
気の凄まじい圧力がマサムネを後方へ弾き飛ばす。
ドゴゴーン!!
圧力を受けたマサムネに二番目の攻撃である真空の刃が襲い掛かった。
スバババババッ!!
無数の刃がマサムネの体を切り刻む。
つむじ風の如く掻き乱し、なぎ倒された木々。
横たわるマサムネ。
村政はそのままその場所から離れ、五重塔の陰に身を隠した。
「ふぅ。ふぅ。ふぅ。」
苦しそうに息をする村政。
呼吸を整え、集中する。
「まだ、浅い。あと一撃で切り伏せなければ、次は無い。」
マサムネは村政の攻撃をまともに受け、動けなくなっていた。
体力と気力の回復を待ち、マサムネの首を落とす場面を思い描く。
強く念じ、その場面を頭に叩き込む。
スザッ!
―ここかっ!!―
マサムネの骨の剣が村政の頭上をかすめた。
寸前でかわす。
気力が回復しきれない村政は避ける事で精一杯だ。
マサムネは、刀を持ち代えて倒れた村政の胸に突き刺そうとする。
骨の剣を素手掴み防ぐ。
斬鉄を手放し両手で骨の剣を受ける。
「うぐぐぐっ!」
骨の剣は村政の生気を奪う。
血を吸い上げ骨の剣は尚も力を増すように、村政に襲い掛かる。
このままでは胸を貫かれる。
村政は必死に刀を防いでいる。
「村政!!」
総司の声がした。
総司が斬鉄を拾い上げ、マサムネに斬りかかった。
―ぬん!!―
骨の剣で払い除ける。
その隙に村政は抜け出し、更に蹴りをマサムネにぶつける。
マサムネは骨の剣で受け止める。
「わ、若!!」
「村政。結界が一瞬緩んだ。その隙にたえ殿と共に抜け出した。」
マサムネの攻撃が一瞬止んだとき、五重塔の結界が弱まっていたのだ。
二人は階段を降り、一階に身を隠し村政達の戦いを見守っていた。
たえは一階に隠れている。
―なぜ、貴様がここに居る!―
マサムネが総司を睨み付ける。
「マサムネよ。お前が思いの外村政に押されて居たからな。結界が緩んだのだ。」
総司は答える。未だに傷が痛むのか、汗を滲ませて答える。
―くっ。まあ良い。順番が狂うが同じ事だ。―
総司目掛け斬りかかるマサムネ。
ガキン!!
その攻撃を受けたのは村政だった。
「何処へ行く!お前の相手は俺だ!!」
気を発した斬鉄で受け止め、マサムネを弾き返す。
更に一撃をマサムネに食らわせる。
地面に衝撃と共に沈み込むマサムネ。
―ぬぐぅ!!―
「止めだ!マサムネよ!!我が渾身の斬撃を剣ごと受けろ!!」
全身全霊の持てる気を斬鉄に込め、紅く燃える溶岩のように変化した斬鉄を、受け止めている骨の剣ごと砕き、マサムネをも打ち砕くようにねじ伏せる村政。
「うりゃああぁぁぁ!」
ぶしゅっ!!
マサムネの肩から伸びた骨が、村政の心臓を一直線に貫いた。
村政はその場に崩れ、動かなくなった。
余りにも速く、一瞬の出来事。
大量の血が、穴のなかに溢れ出す。
「む!村政!!」
総司が叫ぶ。
―ぐふ。ぐふふふ。我は悪鬼なり、この世に現ざる者なり。よって、この体は実に都合良く出来ているのだ。ぐはははははっ!!―
マサムネは笑う。
どんな事が起きようと、倒れる事は無いと言う、自信に満ちた笑い声をあげる。
「村政!!!」
尚も総司は叫ぶ。
村政は血を流し、動く事は無かった。