軍平記〜その男、村政〜
骨の剣を持ち、総司に立ちふさがるマサムネ。
―さて、国を滅ぼす前に先ずは伊達よ。貴様を殺す。―
「・・・。」
総司は声も発する事が出来ない。
―喰らえ。―
マサムネが骨の剣を総司目掛けて降り下ろす。
シュバッ!!
総司の目の前を誰かが横切った。
本間たえだった。
肩から背中に掛けて、切り伏せられる。
「たえ殿!!」
総司は叫ぶ!
たえの鮮血が総司に掛かる。
「たえ殿!!」もう一度叫ぶ。
崩れ落ちるたえ。
「そ、総司様・・・。わ、私にはこれくらい、しか、で、できませぬ・・・。お許し、ください・・・。」
絞り出すようにたえは言う。
「もう何も言うな、たえ殿。」
たえを抱きかかえる総司。
か細い吐息が口から漏れる。徐々に目から光がなくなり始め、涙が流れる。
「あ、悪鬼の手から、こ、この国を、守って下さい・・・。お願いします、総司様。」
「たえ殿っ!!」
総司は堪えきれず嗚咽が込み上げてくる。
激しく涙を流す。
その時、突然総司は首を掴まれた。
―いつまで悲しんでいる。直ぐに二人と同じ場所へ案内してやろう。―
マサムネは総司とたえを村政の遺骸が有る穴へ放り投げた。
ズザッ!
―さあ、三人揃って羽黒の土塊となれ。―
マサムネは気を込めた手から、波動を発し、三人を消滅させようとしている。
「ば、万事休すか・・・。もはや、これまで・・・。」
動けない総司は、たえの手を握り、村政の背中に顔をうずめた。
もはや、万策は尽きた。
マサムネの波動が大きくなる。
あの波動を受ければ間違いなく消滅するだろうと、総司は思った。
総司の足下に斬鉄が刺さっている。
マサムネの波動を受け止められるのは、斬鉄しかない。
確証は無いが、ただ殺られるよりはマシだ。
力を振り絞り、斬鉄を構える。
―ふん。無駄だ。死ぬが良い。―
マサムネは波動を三人に向けて放った。
ドゴゴーン!!
凄まじい音が響き渡る。
―!?―
マサムネは驚いた。
斬鉄は波動を吸収し、反動で総司の手から外れ、村政に突き刺さっていたのだ。
村政に向けて、骨が延びて心臓を貫いた場所に、同じ場所に、斬鉄が突き刺さっていたのだった。
斬鉄に血管が走るように幾重にも筋が走る。
ビキビキと音を発て、斬鉄は縮んでゆく。
心臓の傷を塞ぎ、斬鉄は村政と一つになる。
「な、なんとしたことだ。」
呆気に取られる総司。
突如目を覚ました村政。
マサムネに飛び掛かる。
―ぬっ!貴様!さっき完全に殺した筈では・・・。―
言い終わらないうちに、マサムネを突き倒し、馬乗りになる村政。
凄まじい威力の拳でマサムネ殴り潰し始める。
何十発も滅茶苦茶に殴り倒す。
斬鉄で切り刻むようにマサムネを殴打し、防ごうとする腕を引きちぎる。
尚も打ち続け、マサムネの体を引きちぎり、それをぶちまける。
―うぬあっ!!―
堪らずマサムネは声を出し、膝の骨を延ばしまたもや村政の心臓を貫く。
それでも飽きたらず、何ヵ所も突き刺す。
しかし、突き刺した場所でマサムネの骨は粉砕される。
しかも傷はすぐに再生し、全くマサムネの攻撃が通用しない。
村政は、マサムネの首に食らい付いた。
ゴキゴキとマサムネの首の骨が砕ける音が聞こえる。
村政は噛み砕く。
―うげぁぁぁっ!!―
マサムネの首を引きちぎり、更に拳で殴り、砕く。
何発も、それこそ原型が解らなく成るほどに。
呪詛で形成された肉体も、打ちのめされ、呪いが消え、消滅した。
頭だった部分は肉片である。
無造作に転がる肉片だ。
あの強力なマサムネを、いとも簡単に粉砕した村政は、五重塔に向かい、破壊し始める。
壁に手を突っ込み、柱も壁も皆破壊し始めた。
ゴゴゴゴ・・・。
五重塔が崩壊し始める。
瓦礫が村政を呑み込む。
「む、村政!!」
思わず総司が声を出す。
大量の解体された塔の残骸が村政を呑み込み、砂埃がもうもうと立ち込めていた。