軍平記〜その男、村政〜
兵共が夢のあと。
意識を失った総司が、目を覚ます。
傍らにはたえの事切れた遺体があった。
「たえ殿・・・。」
総司はたえの遺体を抱き抱え、穴から出る。
静寂を取り戻した羽黒一体は、朝焼けを向かえる。
羽黒陰陽衆が脈々と命を懸けて呪詛を行った五重塔は残骸と化し崩壊した。
人間の摂理に反し、魔道を極め、死者を生き返らせると言う呪詛を一人の武将へ掛け続けた陰陽衆の野望は、ここに潰えた。
激しい虚しさが総司の心を蝕む。
「七つの時、思い描いた青葉国への復讐が、こんな形で幕を閉じるとは・・・。」
総司は呟く。
復讐からは何も生み出さない。
待っているのは新たなる痛みと、激しい虚しさなのだ。
理解はしていた。いや、理解していたはずだった。
しかし、その思い考えていた形とは程遠い感情が今は沸々と沸き上がっていた。
たえに野菊を添え、手を合わせる。
復讐によって失った、関わりを持った人々の命の重さを、総司は改めて感じた。
戦った人々の背後には、様々な繋がりがあり、生きてきた歴史があり、証がある。
一兵にも、村人にも、仇にも。
報復と抑えきれない激情。その狭間をこれからも行ったり来たりを繰り返し、帳尻を合わせて生きていかなければならない。
何度も反芻し、飲みくだき、考えて。
総司はたえの遺体に土をかぶせ、思っていた。
その時、瓦礫の中から村政が立ち上がった。
ズザン!
瓦礫が弾け飛ぶ。
「む、村政!!」
砂埃の中、立ち上がった村政の首にもう一つ何かが食らい付いている。
マサムネの生首が、歯を立て、食らい付いていた。
ほぼ口元しか残っていないマサムネの首が、村政に食らい付く。
村政はその首を引き離そうと、両手で引きちぎろうとする。
瞬間、村政の首が千切れた。
ブワッシュゥ!!
大量の血が首から溢れ出す。
村政の首が地面に転がる。
首がなくなった村政の胴体に、マサムネの首が収まった。
再生していくマサムネの頭。
人知を越えた恐るべき姿であった。
「ぐはははははっ!乗っ取ってやったわ!この男の体を、奪ってやったわ!!」
マサムネは笑う。
村政の体を奪い、同化しようとしていた。
「な、なんと言う事だ!」
総司は身構える。だが、戦える気力も体力も回復してはいない。
マサムネはついに同化を果たす。
禍々しい生気が身体中から放たれている。
「この体さえあれば、又ワシは自由に生きていける。ぐはふははっ!最高の気分だ!」
「もはや、これまで・・・。」総司は完全に諦めた。
脇差しを出し、切腹を覚悟した。
「ぬ、ぬぬぬ!どうした事だ、体が言うことを聞かぬ!うぐ、い、痛む。あ、頭が痛む!」
「うがあああああっ!!」
突如頭を抑えのたうち回るマサムネ。
「またか!また、この痛みがワシを!!」
「ぐおおおおおおっ!」
巫女の斬鉄を吸収し、再起した村政は、心臓部に斬鉄を宿した事でその体を一時的に支配されていた。
村政自体が斬鉄に変わり、強力な刀と化しマサムネを破壊した。
五重塔を崩壊させ、その衝撃で正気に戻りつつあった村政。
突然首を奪われ、正気に戻る前に入れ替わられた。
未だに刀の一部である村政は、本体に収まる為、マサムネの頭部を排除すべく、村政の体が拒絶を始めていた。
そこで起こる意識の障害に苦しみ始めたマサムネ。
混濁する意識の中、マサムネは過去を思い出しつつあった。