軍平記〜その男、村政〜
青葉国の後継者は、伊達家の遠縁に当たる者が継いだ。
結局、貴場一族は禁忌を冒し、青葉国を意のままに操った罪を問われ失脚し、家は取り潰された。
国交を正常に戻すため、青葉国の外交官は奔走した。
各国と再び同盟を結び、国力の回復に力を入れた。
青葉国西の果て酒田の復旧も進んでいる。
伊達総司を青葉国の後継者にするとの動きもあったが、総司は固辞し、重臣達も諦めた。
けやき長屋から伊達りょうも酒田に呼び寄せられ、総司、村政、たえ、りょうの四人が一緒に過ごす事になった。
「伊達の旦那!この柱はこっちで良いですか!?」
「ああ。そのままそこに建てて置いてくれ。」
「伊達様!皆でお昼を食べましょう。」
「もうそんな時間か。よし、みんなお昼にするぞ。」
酒田港は活気に溢れる。復旧は酒田に残った住民と、総司達によって建物の建設が進む。
「総司様!皆様の食事をお持ちいたしました。」
本間たえと、伊達りょうが食事を作り作業する住民に振る舞う。
「兄上様、村政様は?」
りょうが声を弾ませ総司に聞く。
「村政は材木の切り出しに山まで行っている。そうだ、りょう。昼飯をあそこの山まで届けてきてくれ。」
「はい!すぐに!」
りょうは嬉しそうに答える。
村政は山林で木を切っていた。
あの戦いの後、斬鉄が村政のよりしろになり、不屈の肉体を手に入れた。
体を切られても、又元に戻る。
斬鉄を渡すに相応しい人間に会うまで、その使命は終わらない。
有る意味、呪いでもあるが、マサムネのそれとは違い、自分の意思で、斬鉄ごと消滅する事も出来る。
村政はその使命を全うする事を誓った。
いつになるか解らないが、いつか斬鉄を求めて訪ねて来る誰かに託す為に。
「村政様。」
「これはりょう様。どうしました、こんな所まで。」
「お昼をお持ち致しました。」
「おおっ。助かります。丁度腹が減っておりました。」
二人は切り倒した丸太の上に腰を下ろし、握り飯を食べる。
穏やかな昼食。
「村政様。このまま酒田に住むのですか?」
りょうは村政に聞く。
「ええ。若がここに住むのでしたら、私はそれに従うまでです。」
「では、りょうもお側に居ても宜しいでしょうか。」
うつむきなが村政に言うりょう。
「ええ。勿論。兄弟仲睦まじくお過ごし下さい。」
村政はりょうに言う。
「ち、違うのです村政様!わたくしが言いたいのは・・・。」
そこまで言うとりょうは顔を赤くして黙ってしまった。
カッコウが鳴く。
透き通るような声で、森に澄み渡るように。
青く澄んだ空に、鳶が鳴きながら輪を書いている。
風が港の笑い声をここまで運んでくる。
幸せそうな、希望に満ち溢れる笑い声だ。
ふと、村政の頬についた米粒を、りょうは人差し指で取り、口に入れる。
村政はりょうに優しく笑い掛ける。
りょうも村政に笑い返す。
二人は声を出して笑う。にこやかに、穏やかに。
カッコウが尚も美しい声で鳴いている。
軍平記〜その男、村政〜
復讐の青葉編
完