軍平記〜その男、村政〜
「村政久し振りだな。元気そうだな。」
「若もお変わり無く。」
伊達総司と村政は互いに向かい合って座った。
「何も在りませんが、今燗をお付けいたしますね。」
「いやいや、りょう殿お構い無く。本日は若に込み入った話が有りますれば。」
「そうですか。では熱いお湯とお漬け物でも。」
「かたじけない、ありがとうございます。りょう殿。」
少し残念そうにりょうは台所へ向かった。
「若、追っ手が迫っております。」
村政が切り出した。
総司は黙って頷く。
「先刻、ヒグマの京極が現れました。」
「なんと!あの鉄仮面か。」
総司は驚いた。
「おそらく、青葉国の刺客が数名潜り込んだようです。」
「あの侵略者共め。」
総司は忌々しく吐き捨てた。
「近々、必ず若の前にも現れるでしょう。なるべくりょう様をお一人になさいませぬよう。」
「ああ。気を付けよう。で、この国の首尾は?」
「大体の要職の顔ぶれは解りました。住まいも、行動範囲も。」
「起こりそうか戦は。」
総司は言う。
「ええ。青葉国の要人も訪れております。二国で結託し、赤城国に攻め込むのは間違いないでしょう。」
「この国に仕官は出来そうなのか?」
「三日後に足軽仕官があります。戦に備えて兵隊をかき集めるのでしょう。そこで出仕するつもりです。」
「本来なら、なるべく中枢に近い方が、戦時の混乱に乗じて策が打てるのだがな。」
総司は笑う。
「このニヤケ顔のせいですな。お陰で、全力で浪人をしておりました。」
村政も笑う。
「お二人とも、お酒ではありませんが、少しお休みになられましたら?」
りょうがにこやかに現れた。
熱い白湯に梅干しが入っている。
たくあんと小松菜の漬物もある。
その夜遅くまで、三人は和やかに話し込んだ。