軍平記〜その男、村政〜
「誰でも良い!助けてくれ!!」
もう一度大声で叫ぶ総司。
「よし、分かった。助けてやる。」
子供は言った。
言うか言わぬか同時であった。
木の天辺から猛烈に落下する塊があった。
ズゾォーンと万極目掛け落下してくる塊。
総司を締め上げる万極の腕が離れた。
一瞬遅ければ、万極の腕は消し飛んでいた程の衝撃だった。
総司とりょうは反動で飛ばされる。
「なんだ、外したか。」落下してきた塊は、総司と変わらない程の少年だった。
「大丈夫か、お前ら。」
総司達を見ながら微笑む少年。
「今度こそ倒してやるぜ。」
全くハッタリではない。
倒せるのが当たり前のような口振りである。
そして滲み出ている比類なき殺気。
七歳の子供が纏うものではない。が、紛れもなくこの子供は纏っている。
「あ、俺村政。いざと言う時にあんたらを守るお庭番?だっけな、それ。」
にこやかに笑う。
「このカマキリ野郎倒せば良いんだよな?」
総司に聞く。
咳き込む総司は頷く。
「頼む。倒してくれ。」
村政の顔付きが変わる瞬間を、総司は見逃さなかった。
口は笑っているが、目は相手を見据え眼光で敵を貫いていた。
「このクソガキがぁ!!」万極は短刀を握りしめ、村政に襲いかかる。
尋常ではない速さと、連打。
だが村政は苦もなく受け流す。体の重心が全くぶれず、スレスレの位置で交わしていく。
子供とは思えない、いや人とは思えない動きである。
村政が右手を上げる。
次の瞬間、短刀を持った万極の腕が弾き飛んだ。
そして拳が万極の心臓を貫いた。
「ば、馬鹿な・・・。」
万極は何が起きたのかも解らないまま絶命し、その場に崩れ落ちた。
総司は呆然と見ていた。
「おい、大丈夫か?大丈夫なら一緒に俺の郷まで行こう。郷なら安全だってじいさんが言ってた。」
「かたじけない。妹共々世話になる。」
もはや総司達に居場所はない。
村政に頼る他無いのだ。
三人は村政の郷へ向かうのだった。