軍平記〜その男、村政〜
伊達家御庭番衆
通称「彼岸花」
頭の一族は代々・彼岸花の姓を名乗る。
役目は国主の内密な護衛。
今回の青葉国内乱において、ことごとく彼岸花は戦死。
頭は藤十郎らにより斬殺。
郷の男はほぼ死んでいた。
御庭番の郷も藤十郎の刺客に襲撃され女、子供、皆殺された。
即ち、郷も全滅してしまった。
周到に張り巡らされた青葉国の内乱は、伊達家の勢力を一掃していたのだ。
総司と村政、りょうの幼い子供達は、今や無くなってしまった彼岸花の郷へと向かっていた。
「な、なんだあれ!」
村政は驚いた。
郷からは煙が上がっていた。
村政は郷に向かい走った。
足を引きずりながら急ぐ総司。
郷の惨状を目の当たりにした。
そこに広がる光景は地獄絵図のようだった。
無数の矢が刺さった遺体。
損傷した遺体。
火が回り事切れた遺体。
子供を抱きしめたまま死んでいる母親の遺体。
建物は燃え、田畑は踏みにじられ、荒らされた家屋。
村政達は絶句した。
文字通り言葉を失なった。
「うわあぁぁぁぁっ!」
慟哭の涙を流す。
叫ぶ。
地面を掻きむしる。
村政はのたうち回る。
自分の境遇を気を張って押し殺していた総司も、涙が流れ出した。
それに気が付いたりょうも泣き出した。
三人はいつまでもいつまでも泣き続けた。
声に成らない声で。
「何も、何もかも無くなっちまった。皆居なくなっちまったぁ・・・。」
村政は転げ回った。ありったけの涙を流し何度も何度も。
七歳と生まれたばかりの女の子。
心に受けた衝撃は計り知れない。
慟哭の声は止まらなかった。