Sweet tears
one tears 2/2*
ガラリと教室の扉を開ければ、
いくつにも重なって聞こえる喋り声。
甲高い声で笑いを上げる女子達。
ぎゃあぎゃあとふざけ合う男子達。
そんな彼らとは比較的小さい声で話す私らにとって、
どちらにせようるさいことに変わりない。
騒がしい教室内。
そんな場所に人気者がきたらどうなるか?
「はぁっ、はぁっ……はぁ〜っ
2人共っ、歩くの早いよぉ」
「そんなこと無いって。
花牧が遅いだけでしょ。ってか遅すぎ…」
柚子と甘の喋り声を掻き消すような、
─「花牧くん、おはよう!」
─「花牧、はよー!」
─「甘くーん!おはよー!」
「うるっさ…」
大音量に包まれます。
「はぁっ…っはぁ……ふぅ。
…みんな、おはようっ」
息を整えた後、本日(恐らく)二度目の
最っ高に甘ったるい笑顔。
「…本当、甘ったるい」
甘から逃げるように、足早に席についた。
「ははっ、朝から大変やなー」
前から甘よりも低い、けれど楽観的な声が耳に通る。
「…それ、誰のこと言ってんの?」
「んー?
…誰のことやと思う?」
──"広瀬 忠義"(ひろせ ちゅうぎ) 。
新学期からの大阪から来た転入生で、私達より1つ年上の男子。
健康そうな顔してるけど、広瀬は生まれつき体が弱いらしい。
去年は持ち前の喘息がピークを迎えてたらしく、
1年の半分以上、入院していたんだとか。
半分以上も入院していたら、そりゃあ補修を受けても
出席日数は足りないわけで。
留年したら元の学校には居づらいだろうっていう
広瀬の両親の考えで、私らの高校に転入してきたらしい。
去年ゆっくりと休んだからか、今は全然健康らしいが。
「…広瀬もあの中に入ってくれば?」
「いやー冗談キツイなぁ。
あそこいったらめっちゃしんどそうやわ」
けらけらと冗談めかして笑う。
「あ、そや」
「何?」
「おはよう、高松」
ニッと笑い、関西弁のイントネーションで朝の挨拶をしてきた。
「…今かよ」
「あはは。そういや言うてへんなーって」
「…おはよ」
広瀬は少し、ズレているっぽい。