光の少女Ⅰ【覚醒編】
「ちょっと待って!風華ちゃんは?それに空夜さん達は?」


花音の言葉に王の隣にいた空夜が僅かに笑みを浮かべる。


「俺はこの国の第一皇子だ。国民を置いて逃げることは出来ない。それに、お前も俺より風夜の方がいいだろ」

「花音ちゃん」


近付いてきた風華が付けていたブレスレットを外し、差し出してくる。


「はい。御守り代わりに」

「風華ちゃん・・・」

「またいつか、一緒にお茶を飲んだり、遊びに行こうね」

「うん。約束だからね!」


涙を堪えて笑みを見せる。

渡されたブレスレットは左手につけた。


「さあ、行きなさい。風夜、頼んだぞ」


王の言葉に風夜が再び花音の手を引く。

二人はそのまま謁見の間を出ると、中庭へと走り出した。

中庭まで来ると、飛竜達が身を寄せあい、一ヶ所に集まっていた。

その中の一匹が風夜の姿を見て、近寄ってくる。

風夜はその飛竜を宥めるように撫でると、その背に飛び乗った。

花音が風夜の手を借りて背に乗るのと同時に空間が歪み、黒い陰が現れ始める。


「しっかり掴まってろ!」


陰に風の刃を叩き付け、風夜が飛竜の腹を蹴る。

飛竜がそれを合図に上昇し、陰が届かない上空で停止する。

花音が地上を見下ろすと、中庭にいた飛竜達が次々と陰に捕われていくのが見えた。

中庭だけではない。

城が、街が覆われていく。

その光景に花音は残してきた人達の身を案じるしかなかった。

「・・・行くぞ」


同じように地上を見下していた風夜が苦々しい表情で言う。

風夜が飛竜の腹を蹴り、飛竜が翼を羽ばたかせる。

チラリと見えた彼の表情は苦しげで、花音は胸が締め付けられた。

陰の一族に襲撃され、黒い陰に覆われた風の国は徐々に遠ざかっていった。
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