シンデレラに恋のカクテル・マジック

 いつも通り三時に個別指導塾に出勤した菜々は、今日は中学一年生、二年生の国語と英語、高校一年生の英語を担当した。そうして生徒それぞれのファイルに学習状況などを記入すると、大急ぎでサンドリヨンへと向かった。

(あーあ、永輝さんのフレア・ショーは終わっちゃったなぁ)

 サンドリヨンの最寄り駅に着いたときには、もう午後十時半を回っていた。残念に思いながらバーに向かったが、ドアが見えてきたところで足を止めた。バーの前に見慣れない黒の高級外国車が駐まっていたのだ。

(まさかバーのお客様? でも、車を運転してバーに来るなんて、ねぇ……)

 マンションの住人の客かもしれないが、それならバーの真ん前に駐めなくてもいいのに。そんなことを思いながら、菜々はサンドリヨンのドアを開けた。店内には大樹と健太、それに菜々も顔なじみになったビジネスマン三人組のほか数人の客がいて、その彼ら全員の――永輝の――視線が一斉に菜々に注がれた。

(な、何? 急いで来たから前髪変になってる? メイクよれよれ?)

 菜々が髪や顔をぺたぺた触っていると、永輝がカウンターを回って菜々に近づいた。
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