シンデレラに恋のカクテル・マジック

　菜々は両手で名刺を受け取り、その四角い紙片を見た。そこには彼が言った通りの肩書きと名前のほか、オフィスの電話番号とEメールアドレスが印字されている。

「くずはホールディングスの……和倉様……」

　くずはグループといえば、繊維製品、飲食サービスを始めとして、傘下にさまざまな企業を抱える日本有数の企業グループだ。傘下企業の一つの大手アパレル企業が、KH(カーアッシュ)など二十代から三十代向けの人気ブランドを複数持っているため、いくら節約生活に勤しむ菜々とはいえ、名前はよく知っている。

　それでも、就職活動の頃の記憶まで引っ張り出してみたが、菜々とくずはホールディングスとの、あるいは和倉一臣との接点は思い当たらなかった。

（とりあえず用件を聞いてみよう）

　菜々は一臣を見る。

「あの、今日はどのようなご用件でしょう？」
「お嬢様、あなたをお迎えに上がったのです」
「お嬢様？」

　彼の言葉に菜々は反射的に振り返ったが、菜々の背後にはダークブラウンのドアがあるだけだ。菜々は視線を一臣に戻してぱちくりと瞬きをした。

「お嬢様って誰のことですか？」