シンデレラに恋のカクテル・マジック
 一臣がきっぱりと言った。菜々が寂しげな表情で窓の外に視線を向けたのを見て、一臣が話を変えた。

「サウス・オオサカ・マガジンの記事では菜々さんはアルバイトだと書かれていましたが、菜々さんは予備校でもお仕事をしているとおっしゃっていましたよね? 仕事を掛け持ちされているんですか?」
「あ、えっと……就職活動に失敗して、どっちもアルバイトなんです。実家の固定資産税とか地震保険料とか払いながらアパートの家賃も払わなくちゃいけないので……ほかにも塾の講師と家庭教師もやっています」
「それはそれは……大変ですね。でも、そんな状況なら、なぜご実家を売却しないんです?」

 一臣の言葉に菜々は視線を落とした。

「両親との思い出の残る家なので……今はまだ売ることは考えられないんです」

 それに、罪悪感が軽くなったのはつい最近のことなのだ。

「そんなにご苦労をされていたなんて……言葉もありません」

 一臣に思いやりのこもった口調で言われて、菜々は照れながら答える。

「そんなに苦労しているつもりはないんですけど……」

 付き合う前からもタンデム・フレアの練習のため永輝と一緒の時間をたくさん過ごしてきたうえに、まかないと称して食事もほとんどサンドリヨンでごちそうになっていたので、金銭的にもだが精神的にもずいぶんと余裕が出ていた。
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