シンデレラに恋のカクテル・マジック
 永輝のことを思い出して頬を緩める菜々に、一臣が言う。

「でも、今の話はおじい様にはしない方がいいでしょうね」
「どうしてですか?」

 菜々は首を傾げた。

「葛葉家の孫娘が苦労されているなどと知っては悲しむと思いますよ」
「そうですか……?」

 菜々自身、両親を失ってからは毎日の生活に必死すぎて、苦労を感じる暇などなかった。それに永輝と知り合ってからは、女性慣れしている彼にドギマギさせられ、好きになってからは一緒にいられる嬉しさと――ときには嫉妬で――心が振り回されて忙しく、気持ちが通じ合ってからはその幸せを噛みしめているくらいだ。

「さっきも言いましたけど、私にとって今の生活には何の苦もありません」
「菜々さんはそう思っているとしても、社長には想像もつかないでしょうね。社長はくずはホールディングス代表取締役として、孫娘にもそれなりの職に就いていてほしいと思っているはずですよ」

 一臣の話し方は丁寧だが、菜々は引っかかるものを感じた。

「それなりって何ですか? 私、どの仕事も好きですよ」
「すみません、他意はないんです。ただ、おじい様は娘さんをあのような不幸な形で失ってしまったので、孫娘の菜々さんには絶対に幸せになってほしいと思っているんです」
「私、幸せですよ」

 菜々の言葉に、一臣が小さく首を振った。
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