シンデレラに恋のカクテル・マジック
(お母さんはお父さんと結婚して幸せだったと、どうにかしておじい様にわかってもらいたい……)

 菜々が考え込んでいると、一臣が気分を変えるように軽い調子で話しかけてきた。

「話題を変えましょうか。あまり楽しい話題を提供できませんが」

 一臣が言って、自分のことを話し始めた。現在三十五歳で株式会社くずはホールディングスに入社して十三年になること、入社当初は広報部に配属になり、グループのブランドのPRや管理に関する業務に携わったこと、情報システム部を経て現在の経理部に配属になり、三年前に取締役経理部長に就任したことなどを教えてくれた。

「じゃあ、和倉さんは祖父の会社一筋だったんですね」

 彼の見事な経歴を聞いて、菜々は感心して言ったが、一臣は皮肉っぽく口元をゆがめて答える。

「僕にはこれといった強みもありませんので、会社の役に立ちたいとただひたすら真面目に働いてきただけです。それがこんなふうに評価されただけで……」
「和倉さんは謙虚な方なんですね」
「そうでしょうか」
「だって、お若いのに取締役経理部長でしょう? すごいですよ」

 菜々はほめたつもりだったのに、一臣は唇を引き結んで黙ってしまった。

(お世辞だって思われたのかな? 本心で言ったのに)
< 183 / 278 >

この作品をシェア

pagetop