シンデレラに恋のカクテル・マジック
(危篤だっていうのは私の早とちりだったのかな? おじい様は思ったよりお元気そうだったし、昼食を食べてもう少しお話ししたら、大阪に帰ろう)

 夜には永輝さんに会えるかな、などと思いながら、一臣に案内されて玄関を出て、駐車場に向かった。そこでまた運転手が開けてくれたドアから後部座席に乗り込む。

 反対側のドアから乗り込んだ一臣が運転席に向かって言う。

「KH+(カーアッシュ・プリュス)田園調布店に向かってくれ」
「かしこまりました」

 一臣の言葉に菜々はびっくりした。KH+が扱うのは二十代向けのカジュアルエレガンスで、通勤やお出かけ仕様のスマートカジュアルを扱うKHブランドの高級版だ。もちろん菜々はそんな店に足を踏み入れたことなどない。

(てっきりKHだ思ってたのに。+は桁が違うよぉ……)

 遠慮した方がよかったなと後悔したが、もう遅い。それに、すぐに帰るつもりなのだから、今ぐらい祖父の喜ぶことをしてあげよう、とも思った。

「着きましたよ」

 一臣に言われて顔を上げると、車はすでに駐車場に到着していた。すぐ横には白い壁の大きな三階建ての店舗と、白地にゴシックのフォントでKH+とだけ書かれた看板が見えた。
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