シンデレラに恋のカクテル・マジック
 二度も言われては我慢ならない。

「お言葉ですが、おじい様」

 菜々がカッとして立ち上がろうとしたとき、一臣がさりげなく口を挟んだ。

「社長、そろそろ菜々さんを東京見物に連れ出しても構いませんか?」

 良介がぞんざいに片手を振る。

「ああ、さっさと行け」
「それでは失礼します。菜々さん、行きましょう」

 一臣に促され、菜々は怒りを押し殺しながら立ち上がった。

「失礼します」とどうにか低い声で言ったが、胸がムカムカして、まさにはらわたが煮えくりかえるような気分だ。

 自分以外の人間にこんなにも腹を立てたのは初めてだった。だが、葛葉家の玄関を出たところで、一臣が菜々に向き直り、諭すように言った。

「菜々さん、おじい様は心臓が悪いんですよ。あんなに刺激するようなことを言ってはいけません」

 彼の言葉に菜々は唇を引き結んだ。確かにその通りだったかもしれない、と反省する。

「すみません……。でも、お父さんのことをあんなふうに悪く言われたら、和倉さんだって腹が立ちませんか?」

 一臣は小さくため息をついた。

「だから先に忠告したんですよ。社長は考え方が古い、と」
「そう……でしたね」
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