シンデレラに恋のカクテル・マジック
 一臣に話しかけられて、菜々は右側に座る彼にチラリと視線を投げた。

「本当は今すぐにでも帰りたいです。父のことを認めてくれたのかもと期待していたので。それより、和倉さんも大変ですね。秘書でもないのに孫娘のお守りまでさせられて」

 菜々のつんつんした口調にもかかわらず、一臣は笑って答える。

「慣れています」

 一臣の返事を聞いて菜々は考える。

(大企業で働くってこんなものなの? それともおじい様が特別?)

 眉を寄せる菜々を見て、一臣がいたずらっぽく笑って言う。

「でも、菜々さんといると息抜きができますから」

 彼がそんなふうに楽しげに笑ったのを見たのは初めてで、菜々の気持ちが少し和んだ。

「それは仕事がサボれるってことですか?」
「ええ、まあ。僕がこんなことを言っていたってことは、社長には内緒にしておいてくださいね」

 一臣に目配せされて、菜々は思わず微笑んだ。

(なんだか共犯みたい。永輝さんは和倉さんのことを警戒してたけど、永輝さんの取り越し苦労よね。だって、一臣さんってすごく優しくていい人みたいだもん)
< 205 / 278 >

この作品をシェア

pagetop