シンデレラに恋のカクテル・マジック
 初めて永輝にサンドリヨンに連れ込まれたとき、夢中になった彼のフレア。そのときと同じ気持ちで彼のフレアに見入る。部屋の中は静かなのに、菜々の耳にはあの日聞いた楽しげな音楽がこだまする。

 永輝はキルシュリキュールのボトルを取り上げ、手のひらでスピンさせると、左手のティンにリキュールを注いだ。そのティンを背中から投げ上げ、一滴もこぼさずに体の前でキャッチして、中身をシェーカーに空ける。次はディサローノアマレット。それも同じ技を繰り出しシェーカーへ。次はオレンジジュースとレモンジュースのボトルをインフロント・クロス。シェーカーに中身を注ぎ、最後にグレナデンシロップを加えた。そうして氷を入れ、余裕の笑顔でシェークする。

(やっぱりかっこいい……)

 ほうっと息を吐く菜々の目の前で、彼がグラスの氷を捨ててそこに注いだのは、情熱的な赤色が美しいカクテル。最後に砂糖漬けのサクランボ、マラスキーノ・チェリーが飾られた。

「わあ、きれい。なんて名前のカクテルですか?」

 菜々の問いかけに、永輝がカウンターを回って彼女の横の椅子に浅く腰掛けた。

「ハピリー・エバー・アフター」

 菜々は瞬きをして永輝を見た。

「それっておとぎ話の最後によく出てくる……?」
< 275 / 278 >

この作品をシェア

pagetop