シンデレラに恋のカクテル・マジック
 そんなことを考えながら菜々がスツールの座面と背もたれを拭き終えたとき、永輝が言った。

「営業時間中、注文を受けたらここにある伝票に、テーブル別かお客さん別に記入してね」

 永輝がカウンターの客から見えないところに置いてある小さな伝票を示した。

「はい」
「で、料理だけど、そんなにメニューはないんだ。クリームチーズのディップは箱から出してクラッカーを添えるだけ。唐揚げとかフライドポテトは注文が入ったらコンロで揚げる。サラダは野菜室の野菜を食べやすい大きさにカットしてガラスの器に盛りつける。ドレッシングは客のお好みでイタリアンかフレンチ。まあ、そんな感じ。結構簡単でテキトー」

 営業時間さえ彼の気分次第というサンドリヨンでは、メニューも臨機応変に出せばいいようだ。

「わかりました」

 菜々は永輝にグラスや皿などの場所を教えてもらった。

 やがて七時になり、永輝がドアの鍵を開けCLOSEDの札を裏返してOPENにした。ほどなくしてOLとおぼしき女性の二人連れがやってきた。一人は白地に黒のグラフィカルなフラワープリントが大人っぽいワンピース姿で、もう一人はキリッとしたベージュのパンツスーツ姿だ。
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