シンデレラに恋のカクテル・マジック
 菜々は一人でドギマギしているが、永輝は慣れているのか落ち着いた声で「かしこまりました」と言って、カクテルグラスを取り上げた。そしてグラスの縁をレモンで濡らし、皿に広げた砂糖の上にグラスを伏せて砂糖をつける。

「こういうのはスノー・スタイルっていうんだ。カクテルのレシピによっては塩の場合もあるけど」

 永輝がつぶやくように、でも菜々にだけ聞こえるように言った。続いてシェーカーにウォッカなどの材料を注いで、シェークする。そうしてスノー・スタイルのカクテルグラスに注がれたのは、見た目にも情熱的な赤い色のカクテルで、ドライベルモットやスロージンの濃厚な香りが漂う。

「わあ、キレイ……」

 菜々がつぶやいたとき、バーのドアが開いて、見たことのある男性客が二人入ってきた。一人は菜々が初めてサンドリヨンに来たとき、「永輝がナンパしてきた」と言ったあの男性だ。

「あれ、菜々ちゃん、だっけ。サンドリヨンで働くことにしたんだ」
「あ、いらっしゃいませ」
「また会えて嬉しいなぁ。俺は西田(にしだ)大樹(だいき)ね。こっちは辻岡(つじおか)健太(けんた)」

 大樹と名乗った彼が、背後にいたひょろりと背の高い黒髪の男性を示した。菜々が初めてサンドリヨンを訪れた日、大樹の横で静かに飲んでいた男性だ。
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