シンデレラに恋のカクテル・マジック
 健太の注文に、永輝はすばやくオールドファッションドグラスを取ると、氷を入れてバーボンを注いだ。

 大樹と健太が「乾杯」と言ってグラスを軽く持ち上げ、それぞれ口に含む。

「あー、うまい。今日も疲れた」

 大樹がほうっと息を吐き出したとき、パンツスーツの女性が彼に話しかけた。

「お二人は永輝さんと親しいみたいですけど、大学のお友達とかなんですか? それとも会社の?」

 大樹がそのキリッとした美人を見て、目元を緩めながら答える。

「ああ、大学のときからの腐れ縁ってヤツですね。勤務先はそれぞれ違います。俺は広告代理店で、健太は大学の講師」
「どちらの広告代理店にお勤めなんですか?」

 大樹が中堅の代理店の名前を挙げて、彼女が目を輝かせた。

「よく名前を聞きますよ」
「そうですか?」
「ええ!」

 大樹と女性二人組が、アボカドとマグロのカナッペをつまみながら盛り上がり始めた。健太の方は一人で静かに飲んでいる。ドリンクの追加注文もなさそうなので、永輝が菜々にささやいた。

「先に晩ご飯食べる? 今日は卵がたくさんあるからオムライスにしようと思うんだけど」
「わあ、嬉しい! ぜひお願いしますっ」
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