シンデレラに恋のカクテル・マジック
 伝えたい想いはあるのに伝えられない。そんな永輝の胸の内を思うと、もう言葉が出て来なかった。菜々が肩を震わせながら泣いていると、サンドリヨンのドアが開いた。大樹が入ってこようとしたが、二人の姿を見て驚いて足を止める。

「悪い、大樹、今日はもう閉店する。ドアの札をひっくり返してCLOSEDにしておいてくれ」

 永輝に言われて、大樹は黙ったままうなずくとそっとドアを閉めた。

「なんで閉店……」

 菜々がしゃくりあげながら言うと、永輝が小さく笑った。

「今日はもう店を開ける気分じゃないんだ」
「だって……フレアをしたら……永輝さん……」

 悩まないですむって言ってたじゃないですか、と菜々は言おうとしたが、続きは出てこなかった。永輝が菜々のまぶたに口づけたからだ。驚いたせいで菜々の涙がピタリと止まった。菜々が瞬きをして永輝を見つめるので、彼は照れたように笑う。

「これは、手を出したのとは違うからな。菜々ちゃんがあんまり……泣くからだ」
「ご、ごめんなさい……」

 永輝がカウンターのスツールに腰を下ろし、菜々を横向きに膝の上に座らせた。そして優しく菜々の髪を撫でる。

「俺のために泣いてくれてありがとう。でも、本当にもういいんだ。これでようやく吹っ切れそうな気がする」
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