シンデレラに恋のカクテル・マジック
「ま、今すぐとは言わないけど、徐々にそうしてくれると嬉しい」
「あ、はい」

 当の本人がそう言っているのだから、彼に対して……家族に対するみたいに……もう少し親しみのある話し方をした方がいいのかもしれない。

 そんなことを考える菜々に、永輝が言う。

「菜々ちゃん、土曜日は予備校の受付の仕事があるって言ってたよね?」
「はい」
「今から出て、どこかのカフェでモーニングでも食べようか」
「そうですね。あ、隣の駅前においしいって評判のカフェがあるんです。まだなくなってないとは思うんですけど……」
「じゃあ、そこに寄ってから市内に戻ろう」
「はい」

 菜々はまだ着られそうな服をいくつか旅行鞄に入れて、和室に行った。そして、両親の写真の前で手を合わせる。

(またときどき会いに来るね。私、弱音を吐かずにがんばるから、見守っていてね)

 菜々が顔を上げたとき、隣で永輝も目を閉じて手を合わせていた。昨晩も、そして今もわざわざ彼が挨拶をしに来てくれたことに胸がじいんとする。

「忘れ物、ないですよね」

 菜々は部屋をぐるりと見回した。そうして心の中でまたね、とつぶやいてから、永輝とともに家を出た。彼のSUVに乗せてもらい、隣の駅のコインパーキングに駐車して、駅前のビルに入っているおしゃれなカフェに入った。窓際のテーブル席に座って、モーニングセットを注文する。周囲にはスーツを着たビジネスマンの姿もあるが、土曜日の今日は高齢の夫婦や若いカップルの方が多い。
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