異世界の国を救う時間があるなら本を読みます。

 「あの…これは一体…?」



 彼らにそう問いかけたのは、3年2組のクラス委員でありムードメーカー的存在の宮崎大輔(みやざきだいすけ)。

 まごうことなきイケメンである。

 しかも運動神経抜群、性格もいいし頭脳明晰、和やかな雰囲気もあいまって、男女関係なく人気を博している男子。

 落とした女は数知れず。



 生徒からの信頼が厚い彼がむさ苦しい男どもに疑問を投げかけたことによって、生徒たちはパニックにならずにすんだ。

 あの数学教師・田中さえの存在意義とは。




 宮崎大輔が問うと、男どもの中から可憐な少女が前に歩み出た。

 淡い黄色のプリンセスラインのドレスを身に纏った、薄茶の髪と目を持つ美少女。

 彼女を見た大輔や他の生徒が、思わず見惚れてしまう。




 「ようこそ、勇者様方!わたくしはオールエル王国の第一王女、ルセン・フォー・オールエルと申します。今の状況を説明させていただきます」

 『王女』という言葉を聞いて困惑する生徒29名と教師1名。

 残る1名の生徒───────由良星々は、傍観者に徹していた。




 彼女が状況の説明をする。

 要約するとこうだ。



 この世界ユーンフォリニアには6つの大陸が存在する。

 人間種が住むヒューレン大陸、獣人種が住むアニスブルタ大陸、精霊種が住むフェアラン大陸、魔人種が住むモンズール大陸、竜族が住むドラージュ大陸、そして未開の地であるノーティング大陸。

 なぜ竜族だけ『○○種』のような括りではないのかというと、竜族は他の種族と一線を画す強さと寿命で、滅多に姿を見せないらしい。

 そのためあらゆる種族に神格化されており、人間種や獣人種や精霊種や魔人種のように『種』という言葉をつけることが禁じられているそうだ。





 人間種が住まうヒューレン大陸にはいくつもの国が形成されており、ここオールエル王国は、北に位置するハンミュル帝国や魔人種のモンズール大陸の脅威にさらされている。

 この国には魔法師が少なく、兵士たちもあまり強くない。

 悩みに悩んで行動した結果が、オールエル王家秘伝とされる勇者召喚であった。


 (へぇ……要はこっちの都合で勝手に召喚さてもらいました〜って展開?笑えないんだけど……。迷惑極まりないな。元いた世界にはまだまだ未知なる本がたくさんあって……ああ!本といえば、こっちの世界にもまだ読まぬ本がたくさんあるかもしれない…!?)

 星々は動揺とは無縁で、むしろフィーバー状態である。
< 9 / 28 >

この作品をシェア

pagetop