ひねくれ作家様の偏愛
プロローグ
彼が仕事部屋としているのは、2DKの間取りのうち、窓のない方の部屋だ。
なんでも隣宅と接していないので音を気にせずに済むらしい。
自然光の入らない仕事場は、一度こもってしまうと時間の感覚が失われる。
朝も夜もない。
あまり仕事熱心ではない彼だけど、集中すれば寝食を忘れることだってある。
私としては書斎兼寝室にしている窓のある部屋か、広々としたリビングで仕事をしてほしい。
陽射しを浴びれば、気分も変わるだろうし、彼の創作活動にも役立つはず。
この部屋は高層階ということもあって、眺めだけは本当に良いのだから。
私が部屋を訪れた時、彼はリビングで漫画雑誌を読んでいた。
ソファの肘掛に上肢を横たえ、脚を反対側にぶん投げてくつろいだ格好だ。
今日の彼は仕事熱心ではない方に振り子が振れているらしい。
「桜庭(さくらば)さんいらっしゃい」
彼が漫画から目を上げずに言った。
「海東(かいとう)くん」
私はリビングの入り口に立って言う。中まで入る気はない。
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