ひねくれ作家様の偏愛
私の煩悶の胸の内を海東くんがわかるはずもない。
彼に伝わったのは、私が嫌悪か恐怖で震えているということだけだった。


「なんちゃって」


彼らしくないおどけ方で、海東くんは私に巻きつけていた腕を解いた。
抱擁から解放され、私はニ・三歩前によろめく。


「ただの冗談ですよ。この程度でビビらないでください。飯田さんと付き合ってるかもと思ってましたが、前言撤回。あんた全然、男に触られるのに慣れてない」


「海東くん……」


私はなんともいえない表情のまま、彼を振り返った。
彼の表情もまた微妙なものだった。

嘲笑は浮かべているものの、瞳が傷ついている。
たぶん、私の拒絶が痛かったのだ。
自惚れているのでなければ。

海東くんは着替えを床から拾い、バスルームに引っ込んだ。
手早く着替えを済ませると、濡れた髪をタオルで拭きながら出てくる。


「ありがとうございました。帰ります」
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