ひねくれ作家様の偏愛
翌朝早く、まだ眠る海東くんをベッドに残し、私は彼の部屋を後にした。

昨夜の雨はやみ、太陽は海の方向から顔を出しかけている。一筋の陽光に目を細める。
スプリングコートでは寒いくらいの朝、マンションの外で温かい缶コーヒーを買った。


あんなことすべきではなかったのかもしれない。
たくさんのリップサービス。それに基づいた約束。


バカみたい。
たった一度抱かれただけで、信じたくなってしまった。
かりそめの好意を。


彼にとって、私は野暮ったい地味な担当。
利用できそうだからしただけ。
精々、緊張をほぐそうと言葉を尽くしてくれただけ。


決めたじゃない。
一晩だけバカになろうって。

お互いきちんと演じきれた。
一夜の恋人ごっこ。

目が覚めたら魔法は解ける。
バカのままではいられない。
今日から、私も彼も元通りだ。


ほら、だから泣くな。
泣いちゃダメだ。
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