ひねくれ作家様の偏愛
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「桜庭さん」
部下でアシスタントの小松が声をかけてくる。
月曜、午前中のオフィス。
「見えちゃったんですけど」
「何が」
私は無造作に言って、パソコンのディスプレイを眺める。右手のマウスで画面をスクロールさせる。
速読のスキルはないけれど、編集者になって読むのは速くなった。
今日中に鈴村編集長に回したい原稿だ。
小松の方をちらりと見ると、彼女はまたしてもアレンジを駆使した巧妙なアップスタイルでメイクばっちり。このままパーティーにでも行けるんじゃないかという完成度だ。
その小松が両手を唇に当て、ぐふふと笑っている。
「この紙袋の中身」
小松がさすのは私のオフィスチェアの足元にある紙袋だ。
中には海東くんが先週置いて行った服が洗濯して入れてある。
「男性モノですよね。桜庭さんの彼氏のですか?」