ひねくれ作家様の偏愛
②
手のひらをじっと見つめる。
海東くんとつないだ手のぬくもりを思い出す。
私たちのはじまりは、あんなかたちでなくてよかったのかもしれない。
他に方法があったのかもしれない。
ずっと海東くんの気持ちに気づかぬフリをしてきた。
私への執着は依存と加虐心なのだと思ってきた。
私自身の気持ちをファン心理と決めつけ、彼との共依存関係を悪しく思ってきた。
海東くんの気持ちは、もっと純粋なのかもしれない。
今、彼との繋がりが絶えそうになり、私は考えている。
作家と編集者として繋がれなくなったら、私と彼はどうなるのだろう。
互いに背を向け、別々な道を歩めるだろうか。
この数年をなかったことにして。
そんなこと、できない。
私の心には、彼という存在が杭打たれている。
「桜庭さん、会議終わったみたいです!」
佐々木くんが横で言う。
顔を上げると、会議室から出てくる鈴村編集長の姿。
私は立ち上がり、断罪されるような気持ちで、やってくる鈴村さんを待った。