ひねくれ作家様の偏愛




手のひらをじっと見つめる。


海東くんとつないだ手のぬくもりを思い出す。

私たちのはじまりは、あんなかたちでなくてよかったのかもしれない。
他に方法があったのかもしれない。

ずっと海東くんの気持ちに気づかぬフリをしてきた。
私への執着は依存と加虐心なのだと思ってきた。

私自身の気持ちをファン心理と決めつけ、彼との共依存関係を悪しく思ってきた。

海東くんの気持ちは、もっと純粋なのかもしれない。
今、彼との繋がりが絶えそうになり、私は考えている。

作家と編集者として繋がれなくなったら、私と彼はどうなるのだろう。

互いに背を向け、別々な道を歩めるだろうか。
この数年をなかったことにして。

そんなこと、できない。
私の心には、彼という存在が杭打たれている。



「桜庭さん、会議終わったみたいです!」


佐々木くんが横で言う。
顔を上げると、会議室から出てくる鈴村編集長の姿。
私は立ち上がり、断罪されるような気持ちで、やってくる鈴村さんを待った。



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