ひねくれ作家様の偏愛
「編集長と来たら、桜庭さんも一緒に帰っちゃうんでしょう?俺がオフィスに行くなら、挨拶や契約の後、時間がとれる。ごはん食べに行きましょう」


相変わらず、私の都合はまるで無視だけど、彼の甘えた言葉が可愛くて、つい頷いてしまう。


「うーん、じゃあそれでもいいけど」


「はい、決まり。じゃ、編集長の予定が決まったら、連絡ください。くれぐれもその後に予定を入れないでくださいよ。他に邪魔が入らないように気をつけること」


海東くんに厳命され、私は苦笑い。
ツンデレってやつかな。
海東くんの態度は依然ツンツンしてるのに、たまに甘えた物言いをするようになった。

玄関で靴を引っ掛けると振り向く。


「連絡するね、じゃあ」


「……はい」


海東くんが少し困った顔をした。
浮かせかけた右手が、所在無く下に下がる。

彼はたぶん、もう少しだけ私といたい。
できれば、私に触れたいんだと思う。

そんな想いに気付いていながら、私は無邪気に微笑んでみせる。


「お邪魔しました」


軽く頭を下げると、彼の部屋を後にした。


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