ひねくれ作家様の偏愛



*****



その週の木曜、海東くんは九段下のオフィスにやってきた。
ミーティングルームで木原編集長と顔合わせを済ませる。それから、あらためて契約の説明をし、連載のスケジュールを確認した。
『ともし火』で連載の原稿も、私が引き続き担当することとなりほっとする。

その後、編集部に顔を出した海東くんは鈴村編集長や、関係役員に挨拶回りを済ませた。

私はそれを見守っていたけれど、横から小松がヒソヒソ声で話しかけてくる。


「海東先生ってめっちゃイケメンじゃないですか!桜庭さん、なんで教えてくれなかったんですか?」


女子の内緒話に思わず笑ってしまう。


「そう?確かに整ってるけど」


入社二年目の小松は海東くんを初めて見たようだ。鼻息荒く言い募る。


「メンズモデルが来たのかと思いましたよ!あんなにかっこいいなら、性格悪いのも許します!」


電話でバカにされて、毎度あれほど怒り狂ってたのに。
その手のひら返しの鮮やかさったら。
< 169 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop