ひねくれ作家様の偏愛
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その週の木曜、海東くんは九段下のオフィスにやってきた。
ミーティングルームで木原編集長と顔合わせを済ませる。それから、あらためて契約の説明をし、連載のスケジュールを確認した。
『ともし火』で連載の原稿も、私が引き続き担当することとなりほっとする。
その後、編集部に顔を出した海東くんは鈴村編集長や、関係役員に挨拶回りを済ませた。
私はそれを見守っていたけれど、横から小松がヒソヒソ声で話しかけてくる。
「海東先生ってめっちゃイケメンじゃないですか!桜庭さん、なんで教えてくれなかったんですか?」
女子の内緒話に思わず笑ってしまう。
「そう?確かに整ってるけど」
入社二年目の小松は海東くんを初めて見たようだ。鼻息荒く言い募る。
「メンズモデルが来たのかと思いましたよ!あんなにかっこいいなら、性格悪いのも許します!」
電話でバカにされて、毎度あれほど怒り狂ってたのに。
その手のひら返しの鮮やかさったら。