ひねくれ作家様の偏愛
九段下駅を通り過ぎ、少し離れた洋食屋でランチにした。
海東くんは二人で向かい合っただけで嬉しそうだ。
もちろん、あからさまに嬉しい表情をするわけじゃないけれど、口数は多いし事あるごとに、私の瞳をじぃっと見つめてくる。

その視線がくすぐったくて、恥ずかしい。

小松の言っていたことを思いだす。

『そのへんのフツーの女子じゃ釣り合わないですよね』

うん、そう思う。

海東くんは魅力的な男の子だ。
その才能も、ルックスも。

これから、また日の当たる場所で注目を浴びることになる。


「桜庭さん？食べないんですか？」


海東くんに間近く顔を覗き込まれ、私はあわてた。
私たちの前にはオムライスと日替わりランチがそれぞれ到着している。


「うん、食べる。ごめん、ぼうっとしてた」


「俺と話しながらぼうっとするなんていい度胸してますね」


海東くんがいたずらっぽく微笑む。
こんな表情も見せてくれるんだと思うと、胸が高鳴った。
打ち消すように仕事の話に戻す。
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