ひねくれ作家様の偏愛
結局、私は何の役にもたたず、海東くんの買い物終了。

私のスーツも見立てるという彼にレディスフォーマルのフロアに引っ張って行かれ、そこでもお客さん状態だった。
海東くんが店員さんと話し、私に次々とスーツをあてがう。


「こっちとこっち。試着してください」


厳命され、試着室へ向かう。

こんなに面倒見がいい子だったんだ。
あらたな発見ばかりで、益々海東くんのことが心を占める。

海東くんが選んだのは、ベージュの華やかな印象のスーツと、紺の細かいストライプが入ったシャープなスーツ。どちらもパンツスーツだ。
海東くんはベージュを押したかったみたいだけど、主催者側の人間なので私は紺の方を選んで購入の運びとなった。


「いいですけどね。あんまり目立たれても、困るし」


何が困るんだろう。
海東くんのご機嫌を損ねたくないので、あらためてお礼する。


「ありがとう、見立ててくれて。嬉しいよ」


「別にたいしたことじゃないですから」


海東くんはさらっと答えるけれど、小鼻が少しぴくぴくしていたのを私は見逃さなかった。
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