ひねくれ作家様の偏愛
デパートのフロアを歩きながら思う。
こういうところでスーツを仕立てるなんて、私には考えられないこと。せいぜい、スーツ専門店で丈を直してもらう程度。
やっぱり彼は、私が育った環境よりは上のクラスの生まれなのかもしれない。


「海東くんってこういうところ慣れてるね」


「祖母に付き合って何度か来ただけですよ」


「ご実家御用達なんだ。さすがだねー」


海東くんがわずかに押し黙る。
あれ?何か変なこと聞いたかな?

私は海東くんの顔を見上げる。


「実家は……父は金持ちみたいですが、俺には関係ないです」


その固い声音に困惑する。もしかして、お父様と不仲だったりするのかな?
まずい話題になっちゃったかな。


「誤解ないよう言っておきますが、今、住んでるマンションは俺が自分で買ったものです」


「誤解ないようって……」


「親のスネをかじってません。自立してますってアピールです」


海東くんが会話をそらせた気はしたけれど、続けたくない話題なら私もしたくはなかった。


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