ひねくれ作家様の偏愛
私はやむなく彼の真っ暗な仕事部屋に入り、プリントアウトされた原稿を手に取った。
メールで入稿してくれれば、わざわざ取りに来ることもないし、打ち合わせだってタブレット端末でできるのに。


「ありがとう。貰っていくよ」


「今、ここで読んでください」


彼はじろりと私を睨み、偉そうに言う。

今ここで?
分量としてざっと20万字以上はありそうな原稿を?

彼が書いているのは文芸誌用の純文学。
現在の私の頭はライトノベルで埋まっている。
妹萌えと日常系女子高生スクールライフでいっぱいだ。頭を切り替えなければならない。

それはまだいいとして、時間が問題。
普段なら聞くけれど、今日は一刻も早く帰社したい。


「悪いんだけど……」


「早く、そこ座って」


食い気味に命令を被せられ、拒否の言葉はかき消される。
しかし、今日は負けてもいられない。
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