ひねくれ作家様の偏愛
さあっと背筋が冷たくなった。

ああ、彼の中に私への愛は消え失せたのかもしれない。
憎悪と憤りの瞳で私を射抜いている。
こんな瞳にさせたのは私だ。


「もう終わりにします」


海東くんは厳然と言った。


「あんたを解放してあげますよ。長いことありがとうございました」


「どういう意味?」


私の問う声は失う予感に震えていた。
海東くんがふっと皮肉げに笑う。


「……相変わらず頭の回転が鈍いですね。担当を解任してやるって言ってるんです。あんたの顔は潰さないように今回の連載は最後までやり遂げます。そしたら、終わり。物書きは辞めます」


「海東くん……嫌だ。そんなこと言わないで」


海東くんの微笑みは完全に作ったもの。
それは奇妙に綺麗だった。まるで真っ白なビスクドールみたいだ。


「俺からの仕返しです。あんたは俺のことは愛しちゃくれなかったけれど、俺の作品は愛してる。だから敢えて俺は書くことをやめる。あんたの前から消える」


「私に幻滅してくれるのはいい!でも書くのを辞める理由になんてしないで!」

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