ひねくれ作家様の偏愛
「わかってないですね」


海東くんは心底あきれたようにため息をついた。


「俺にはすべて一緒でした。満足いく作品を書くこと、それで桜庭さんに認めてもらえること。どちらかが欠けたら、もう意味がない。あんたには面倒な4年間だったでしょうけれど、俺には人生で唯一居場所のあった期間でした」


あきれた声音は自嘲的なものに変わっていく。


「『アフター・ダーク』をあれだけ深く愛してくれたあんたなら、俺の本質を見てくれる。俺はそう、勝手に自惚れてました。今更ですが、まんまとあんたに惚れて、無駄に書き続けてきたことを後悔しています。自分のバカさ加減に反吐が出そうです。
……あんたは自分の仕事を成功させることしか考えてなかったのに」


……私はやっぱり最低最悪だ。

この告白が私に気付かせた。
私のしてきたことが如何に残酷なことだったのか。

『いつか捨てられる』なんて、臆病風に吹かれて彼の愛から逃げていた。
中途半端に受け入れて、彼の孤独や不安に耳を塞いでいた。
伸ばされた手を振り払うようなことを続けてきた。

挙句、ごまかしのためとはいえ彼への愛情を否定した。

こんなことしたら、彼と抱き合ったあの優しい夜がすべて無意味になってしまう。


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