ひねくれ作家様の偏愛
想像していたのは大きな庭付きの洋館に白い犬ってところだったけど、実際の海東くんの実家は周囲をぐるりと田畑に囲まれたそれは大きな和風平屋建てだった。
刈り込まれた植木、真っ白な玉砂利。鯉の泳ぐ池も見える。


「やっぱりお坊ちゃんじゃん」


いわゆる昔の大地主や豪農のお宅だ。
今でも農業をやっているのか、母屋の後ろは畑に続いているようで、そちらからは声が聞こえてくる。そちらに回ろうか。

門扉の横に掲示板があり、貼られた市政だよりがふと目に留まる。
案外、お父さんは市の要職についていたりして。市議会議員とか……。

大理石の表札は“松枝”と記されてある。

これで間違いない。
契約書にあった海東くんの保護者は“松枝”姓の男性名だった。
おそらく海東くんのお父さんだ。

当時の契約書には海東くんの名前は“松枝智”となっていた。
しかし、約二年前に専属契約を結んだ際、海東くんの名前は“海東智”。

“海東”がペンネームであったとしても、大抵の場合、契約書には本名も記載される。
私はずっと、彼に“松枝”という名前があること自体、知らなかったわけで……。

門の前で色々考えていると、背後から急に声をかけられた。
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