ひねくれ作家様の偏愛
「ちわッス」


若い男性の声で振り向く。海東くんではなかった。

そこにいたのはスポーツバッグを下げた制服姿の男子。
背も高く声も低いけれど、顔があどけない。
中学3年生くらいだろうか?


「こんにちは……」


男子中学生は私の横を通り過ぎ、敷石の向こう母屋に入っていく。玄関で「おふくろー」と呼ぶ声が聞こえる。

次に「オキャクサン」という彼の声。トタトタと奥から出てくる足音も聞こえた。
私は慌てて、母屋に近付く。


「お客さんって、どこの人?」


「さぁ、俺、知らねぇ」


そんな会話を交わす住人に割り込むように、私は玄関を覗き込んだ。
玄関チャイムも鳴らさない無礼を詫びるより、本題を切り出す。


「恐れ入ります。海東智先生のご実家はこちらでしょうか?」


そこにいたのはさっきの男子中学生と、50代半ばの女性。
二人が私の発した問いに、一斉に目を見開いた。

それで私はわかった。
この二人は海東くんの親族だ。

二人とも他に似たところはないけれど、目だけが海東くんとそっくりだったから。


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