ひねくれ作家様の偏愛
「大袈裟にご実家まで押しかけてしまった私が悪いんです。お騒がせしました。もう一度、海東くんに連絡を取ってみたいと思います」


「桜庭さん、先々週のことなんですが、智が自分から連絡をくれたんです」


おずおずと顔をあげ、お母さんがふっと微笑んだ。


「文芸誌で連載が決まったから、読んでくれって。私はもうあの子がどんな仕事をしているか知りませんでした。今でも文章の仕事をしているのか、はたまた別な仕事をしているのか……。でも、あの子が自分の決めた道でまだ頑張っていると知って嬉しかった。自分から報告してくれるのも嬉しかった。
……私は他の子たちの母親になろうとしすぎて、あの子の母親にはなり損ねた女です。あの子にとっては裏切り者でしょう。それでも、節目で連絡をくれて、本当に涙がでるほど嬉しかったんです」


再びお母さんが頭を下げた。万感こもる所作だった。


「桜庭さんのご指導もあるかと思います。あの子は大人になる前に、私が放り出してしまった子です。手抜かりの多い子です。あの子を見捨てず、一人前にしていただき、本当にありがとうございます」


「お母さん、そんなことは……」
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