ひねくれ作家様の偏愛
「いえ、母として私は何もできませんでした。3年前、『アフター・ダーク』というあの子のシナリオを小説で読みました。涙が止まりませんでした。あのお話は智の孤独そのものだったから……。私はあの子にこんな想いをさせていたんだと思うと、智に申し訳なくて……」


お母さんの瞳から涙がこぼれた。

彼女にとっては、海東くんの作品は罪悪感を深めるものだったのかもしれない。
同じ作品に私は心を奪われ、お母さんは涙した。

どちらも彼の心の泉から生まれ出でたものだ。


「お母さん、海東くんの新連載、ぜひ読んでください」


涙を拭うお母さんの顔を見つめ、私は言った。


「恋愛小説なんですが、すごくあたたかくて、愛に溢れているんです。きっと、『アフター・ダーク』で感じられなかったものが伝わると思います」


私の力説に、お母さんがふっと微笑んだ。
涙を目尻に残し、優しく。


「じゃあ、智には今、大事な人がいるんでしょうね」


私は唇をぎゅっと噛み締めた。
それから、わざと明るく微笑んだ。




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