ひねくれ作家様の偏愛
「海東くん……っ!」


「人のこと我儘だなんて言いますけど、桜庭さんも相当だと思いますよ」


海東くんの胸に顔を押し付け、倒れこむ格好で抱きしめられる。
腕の中は温かく懐かしく、不覚にも縋り付きたくなる愛しさだった。


「海東くん、離して」


「嫌です」


「私、振られにきてるんだ」


「その気持ちを通すのは自由ですけど、俺はひねくれたガキなんで、逆のことをしたくなってます」


海東くんは私の頬を両手でぶにゅっとつぶした。メガネが座席に落ちる。

ぎゅうぎゅう押され不細工にうめく私に、彼がキスをした。
キスは一瞬のこと。

反抗の余地なく、海東くんが鼻と鼻がくっつきそうな距離を見下ろして言い放った。


「あんたのことだから、体良く俺から逃げ出す機会にするつもりだろうけど、そんなの許しません。好きな女に好きだって告白されて、拒否する男がいますか?どこまで恋愛初心者なんですか?」


海東くんが低い声で言う。
頬を締め付ける乱暴な指を押しのけようとするけれど、なかなか外れない。

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