ひねくれ作家様の偏愛
足掻いていた私は、海東くんの瞳を見て動きを止めた。


彼の瞳に、涙が見えた。


「海東くん……」


「俺は……あんたに好いてもらってるなんて……夢にも思わなかったんですよ?」


海東くんの低い声は涙をこらえてのものだったのだ。

ああ、私はまた的外れなことをしていたんだ。
お互いに別な道を行くのが私たちの幸せだと思っていた。
彼を裏切った償いは、離れることしかないと思っていた。


「嘘みたいだ。桜庭さんが、俺のこと好きなんて。ずっと、ずっと夢見てきた。あんたにひとりの男として見てもらえること。そのために書き続けてきたんだ」


海東くんが涙をこらえるようにぎゅうっと瞳を閉じる。
私の頬を包む彼の手。
上から両手を重ねると、海東くんが目尻に雫を残したまま私を見下ろした。


「そんな告白されたら、もう離せない」


私の目にも新たな涙が滲む。

海東くんが私の身体を引き上げ、顔を肩に埋める。
力強い腕が私の背と腰にまわされている。

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