ひねくれ作家様の偏愛
①
二人で向かい合うのは慣れていても、二人で並んで座るのは慣れていない。
必然として、俺と千弥さんの打ち合わせはいまだに向かい合うスタイルだ。
それが高じてプライベートで部屋にやってきた時まで、千弥さんはいつも一人掛けソファの方に座る。
この距離感をどうにかしたいと思っているのは、どうやら俺だけの様子。
本日も彼女は“仕事”として打ち合わせにやってきている。
「智くん、このラストやっぱいいよ。私、すごい好きだな」
千弥さんがテーブルに置いた俺の原稿は、連載の最終回分のもの。
『ともし火』での初連載は来月号で無事最終回を迎える。
単行本としても発売される予定だ。
「千弥さんが好きなら、それで満足です。俺、あんたのために書いてますから」
はっきりと言葉にすると千弥さんは、あっという間に真っ赤になる。
ダッサいメガネの奥のこげ茶の瞳が真ん丸くなる。何度好きだって言ってもその度照れる彼女。
俺がどれだけ好きか。
きっとまだわかってないんだろうな。