ひねくれ作家様の偏愛
俺は立ち上がり、キッチンでコーヒーを入れる作業に入る。
すると、千弥さんものこのこと着いてくる。


「あ、智くん」


不意に千弥さんが俺の後頭部の髪にさらりと指を絡ませた。
指の腹から伝わる温度に驚く。

振り向くと、すぐ近くに千弥さんの顔。


「寝グセ。後ろ、はねてるよ」


無邪気にふわっと笑う。
いつも思うけれど、この人は俺に対して油断しすぎじゃなかろうか。

付き合うことにはなったけれど、恋人になったのであって、俺はあんたの家族になったわけじゃない。
だから、その弟にするような無邪気な接触はやめてくれ。

こっちは、『今は打ち合わせ』って自分に言い聞かせないと、今すぐベッドルームに引っ張って行ってしまいそうなのに。

その気で誘ってるならおおいに乗るけれど、きっと違う。
恋愛経験が少なすぎて、男との距離感がイマイチわかっていないだけ。
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